DRIFTING ON THE NAKAGAWA
 カヌーを始めたきっかけは,多分20年ほど前に野田知佑のユーコン紀行を読み憧れたからのように覚えている。その頃は,いつかは行ってみたいものだと漠然と考えていた。
 そして,15年ほど前に水曜どうでしょうの「ユーコン160km地獄の6日間」をネットで偶然見て以来,いつか必ず行きたいと、それは強い想いに変わっていた。
 行くチャンスは10年ほど前にもあった。50才のリフレッシュ休暇を使って行こうと,ユーコン貯金なるものをコツコツと始め,結構な金額が貯まった。しかし,妻の
「一人で行くつもり?」
の一言で,その貯金は沖縄への家族旅行の資金となってしまった。
 そして,今回は退職金を使ってのチャレンジ。さすがに今回は,
「勤続35年のご褒美で,それくらいはいいんじゃない」
と妻も快く送り出してくれた。
 計画は退職の1年前から練っていた。モンベルのユーコンツアーが年に1回だけ募集される。そのために,会員にもなっていた。いつ募集が始まるのかと待ちあぐね,今年の2月に案内を見つけ,すぐさま応募した。しかし,2番目の応募だった。強者はいるものだ。
 最小催行人数は6人。開催が決まれば連絡が来るはずだったが,その連絡がきたのは,6月の終わりだった。渡航一ヶ月前に実施が決まるとは,やっぱりユーコンは極めてマイナーなツアーのようだ。
 しかし,準備は退職してすぐに始めていた。コツコツと必要な物を買い揃えていった。ユーコンに行くんだからという言い訳を自分に言い聞かせて,あらゆる装備を新装した。テント,シュラフ,靴,バッグ,下着,ズボン。買わなかったのはカヌー用品くらいだ。
 2017年8月5日(土)
 満を持して,いよいよ出発の日が来た。しかし,思ったほど心が弾まない。理由は分かっている。このツアーには添乗員が付かない。現地までは自分で行くしかないのだ。海外はここ20年ほど行っていない。バンクーバーで乗り換えがあるらしいが,果たして無事たどり着けるのか。その不安の方がユーコンに行く期待よりも大きいのだ。
 一緒に行くメンバーは、名前だけは教えられていた。しかし,個人情報保護とかで,それ以外は,当日,成田空港のカウンターで会って見ないと分からない。しかし,チェックインするやいなや,皆慣れた感じで移動を始め,ついて行くのがやっとだった。これは大変だなあと思ったが,搭乗口ロビーで一人を除いて集まることが出来た。
 自然な話の流れの中で,高橋さんという76才のおばあちゃんが、このツアーは2度目だと言うことが分かり,
「食事は美味しいし,何の心配もいらないわよ」
と言う一言で,やっと安心することが出来た。しかし,この年でユーコンとは凄いことだ。感心して,
「じゃあ,高橋さんが団長ということで」
の私の一言で,以来,彼女はみんなから団長と呼ばれることになった。
 17:00エアーカナダ機で成田出発。約9時間のフライトでバンクーバー到着。ほぼ,一睡も出来ず。時差はマイナス16時間。現地時間で朝9時だ。
 ところが,ここからホワイトコースへの乗り換え便が18時までない。9時間の待ち時間はあり得ない。しかし,それだけ,この旅が辺境への旅だというこのなのだろう。
 9時間をどう過ごすかで,みんなで相談した。武田さんは,仕事の関係でやることがあると、空港で待つことに。他の8人でバンクーバー観光に行くことになった。しかし,誰もそんなことは考えていなかったので,どこにどうやって行ったらいいのかさっぱり分からない。とりあえず,案内カウンターで地図をもらい,片言の英語で観光ポイントを聞き出し,電車で行くことになった。海外で電車に乗るのも初めての体験であり,果たして、行ったら無事に帰ってこられるのか。もしかして,乗り継ぎの飛行機に間に合わなくなるかもなどと考えると,ユーコン川を下るよりもスリルがあった。旅行バッグを預けるのも、どこにどうやって預けるのかで小1時間かかり一苦労した。
 電車に乗るには自販機で切符を買うだけ。買い方も一苦労したが,目の前がホームで簡単に乗れた。乗ってみて分かったが,バンクーバーはカナダ有数の都市であるが,日本と違って主な電車のラインが3本しかないのだ。WATER FRONTという観光ポイントまで,CANADA LINEという路線で行って帰ってくればいいのである。
 行きの電車では,団長こと高橋さんとゆっくり話すことが出来た。何と元大学教授で,76才の現在でも宮城大学で講師をしているとのこと。こういう人が,なぜ,ユーコンに2度も行こうとするのか。それだけの魅力があるのは間違いない。
 WATER FRONT駅に到着し,駅に向かってみんなで歩いてみる。すると,海に沿ってメイプルの木が植えられた町並みが有り,そこが観光ポイントになっているのがわかった。ヨーロッパ調の落ち着いたおしゃれな街である。メイプルにもたくさんの種類があるようで,葉っぱの形や大きさが様々だ。それが大きな町並みの主役になっている。
 蒸気時計など目立つポイントで写真を撮りながら,町並みの端まで歩くのに30分とかからなかった。昼食は港の見えるハンバーグ店でとる。ハンバーグがでかく,やっとの思いで食べきる。来た道を引き返し,同じ電車で空港に向かう。不思議だったのは,同じ路線区間なのに,帰りの方が運賃が高いことだ。未だに謎。しかし,来てみてよかった。 
 空港に戻り,ホワイトホースに飛ぶ国内線の改札に向かう。バンクーバー空港の一番端であった。それだけ利用客が少ないのだろう。ここまで丸2日かかっている。そのこともこの旅が辺境への旅だということを物語っている。
 18時発のエアカナダ便にのり,21時30分,やっとホワイトホースに到着。現地ガイドの佐久間さんがとても陽気に出迎えてくれた。空港の外に出ると,まだ日が高い。日本の感覚だと午後4時頃の感じだ。ここまでは時間を潰すのに苦労したが,ここからは急に慌ただしくなる。
 まずは,荷物を積んで,宿泊するホテルユーコンインに直行する。片付ける間もなく,夕食を近くのレストランでとる。ユーコンゴールドという現地のビールが濃厚な味で旨い。サラダとサンドイッチを頼むが,これも量が多い。その後,カヌーピープルというアウトドアフィッターの事務所に行き,釣りの道具や川地図などを購入する。ホテルに戻って,すぐに明日からの川旅のパッキングをする。午前1時就寝。しかし,時差ぼけでほとんど寝られなかった。
 翌日2017.8.6日へ
【特別寄稿】 隊長20年来の夢のツアーへ 《第1日目》 2017.8.5〜12
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